カーテンを開けると、いつもより眩しい朝日が目に焼きつく。
いつもよりかなり早く起きてしまったようだ。今日は休みだって言うのに……。
僕は着替えを済ますと、ゆっくりと扉を開け、妹の様子を窺った。
……ぐっすり寝ているようだ。音を立てずに扉を閉めると、次に朝食を作り始める。
「昨日はちょっと言い過ぎたかな」
そう呟きながら、妹の好きな朝食を用意してあげた。
妹はいつもカリカリに焼いたトーストに、ストロベリージャムをつけるのが好きだった。後はホットミルクと、ベーコンの上に乗せた目玉焼きが大好物。もちろん、プリンには負けるけどな。思わず笑みがこぼれる。
「………あっ」
そこに妹がいた。
目が、赤い……。
「顔、洗って来いよ。お前の好きな朝食、用意しておくから」
「うん……」
ぱたぱたと歩く妹がやけに小さく見えた。
僕はテーブルに皿を並べ始めた。その皿には、あの目玉焼きがある。
と、妹がやってきた。顔を洗ってきたのだろうが、先ほどとあまり変わらない気がする。
僕が何か声をかけようとしたとき。
「………わがまま言って、ごめんなさい……」
小さな声で妹はそう言った。
「わかればいい。ほら、トーストさめるぞ。さっさと食べてしまおう」
妹はきょとんとしていたが、すぐにいつもの笑顔に戻っていた。
「うんっ!!」
朝食を食べ終えた僕達は、とある場所に向かっていた。
「それで、次に泊まるホテルはどこなんだ? 何時までに着けばいい?」
「え、えっと、富丘駅の側にあるホテルだよ。あの大きいホテル、知っているよね? それで、夕方4時に着けば大丈夫だけど……」
「了解。じゃあ、遊園地にでも行こうか?」
「えっ?」
「せっかくここまで来たんだ。楽しまなかったら損だろ?」
「お兄ちゃん……うん、行こうっ! とことん付き合ってもらうからね!!」
その後、ちょっと後悔する事になるとは、このときの僕は思ってもいなかった。
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「面白かったねー、あのジェットコースター♪」
「あ、ああ……うん……」
ジュースを飲みながら、僕はうなづいた。
立て続けにジェットコースター系の乗り物を4つ乗っていた。……ちょ、ちょっと気持ち悪いかも……。
目の前にいる妹は上機嫌だった。もうあのときの泣きはらしていた顔はそこにはない。
これならもう大丈夫だな。しばらく会わなくても……。
あっと、そういえばアレ、聞いていなかったな。この際聞いておこうか。
「そういえば、お前のキャラクターって誰?」
ぶっ!!
「おわ、な、なに吹き出してるんだよっ!! 全く、気をつけろよ」
ポケットから取り出したティッシュで、テーブルを拭いた。
突然、飲んでいるジュースを吹き出すんだもんな……。って、僕、変なこと聞いたのか?
「こほ、こほっ、ご、ごめん、なさい……」
「本当に大丈夫か?」
「だ、だい、だいじょーぶ」
そう言ってVサインをしていたが、全然大丈夫そうに見えなかった。
「えっとね、ちゃんとお兄ちゃんのいる旅団にはいるから、安心して」
「そうじゃなくって、そろそろ教えてくれたっていいだろ?」
「な、内緒の方がどきどきして楽しいでしょ? ね? ……あっ! あれ面白そう! お兄ちゃん、今度はあれ乗ろうよっ!」
結局、この日もまた、妹のキャラクターを聞きそびれてしまったのは言うまでもない。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。
誰がそういったかもう忘れてしまったけど、それは本当だと思う。
この日の遊園地はとても楽しかった。
お化け屋敷で妹を怖がらせたり、ゲームセンターでぬいぐるみを取ってやったり、シューティングゲームで良いスコアを出して妹に褒められたっけ。
そういえば、こんな事、休みの日にはよくやった覚えがあるな……。今はもう、ないけど。
「お兄ちゃん、昨日と今日と……本当にありがとう」
「ああ、いいって」
ここは駅のホーム。この駅から出ている電車に乗れば、富丘駅まですぐだ。
僕はこの駅で妹を見送る事にしたのだ。
「また、会える、よね?」
不安そうに見上げる妹に僕は自然に笑みを浮かべた。
| 「お前、忘れたのか? 無限のファンタジアでいつも会ってるじゃないか。 お前から誘ってきたんだろ?」 |
| 「お兄ちゃん……。 うん、そうだね。また旅団とかで会おうねっ!!」 |
そして、ホームに電車が入って来た。
いよいよ別れの時が来たのだ。
「お兄ちゃん!」
電車に乗った妹が叫ぶ。
「お兄ちゃん、私、…………大学に行く事にしたから!」
「え?」
丁度、電車のドアの開閉音で重要な部分を正確に聞き取れなかった。
「ちょ、ちょっと待て、もう一度っ!!」
そのとき扉が完全に閉まった。
妹は少し悲しそうな笑みを浮かべて、手を振っていた。
僕はゆっくりと動き出す電車を追いかける。
その妹の唇がまた動いた。
『またね、お兄ちゃん……』
僕はいつまでもいつまでも、その電車が遠くに消えるまで見送った。
妹が無事に戻れる事を祈って。
そして、ちょっとした不安を感じつつ……。
「…………さてっと、帰ったらまた、ゲームでもするか!」
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